HTML5の進化、Web標準の進化はメガトレンドになる

2009年8月24日

HTML5が登場することによってWebはどう変わるのでしょうか? いま見えているのは、ハイパーリンクによってつながったドキュメントを閲覧する、という原初のWebの姿から、アプリケーションを実行するプラットフォームへと進化する、という道筋です。

ネイティブアプリ級のHTML5にグーグルが期待すること - @IT

この道筋を改めて確認したのが、8月21日に僕の古巣@ITに掲載された記事「ネイティブアプリ級のHTML 5にグーグルが期待すること」です。これは、HTML5とその先をグーグルがどう考えているのか? について僕がインタビューして記事にしたものです(実は僕が@ITを離れてから初めて寄稿した記事です)。

Webアプリはネイティブアプリと同等になる

このインタビューではグーグルの及川氏が、Webアプリケーションでネイティブアプリケーションと同等のものを目指す、と明言しています。

現在のWebアプリケーションでは、GMailのようなメールクライアント、Google Calendarのようなスケジューラ、それにGoogle Docsのスプレッドシートやワープロなどさまざまな分野のものが登場していますが、どれもネイティブのアプリケーション、例えばThunderbirdやマイクロソフトのOutlook、Excel、Wordと比べれば機能や使いやすさの面でまだまだ大きな差があります。

こうしたWebアプリケーションを「ネイティブと同等」にするのがグーグルの目指すところ、ということなのです。

これが実現すれば、いままでのようにアプリケーションをWindows用、Macintosh用、Linux用などのOS別に開発する必要はなくなります。Web用に1つ作ればいいのです。そうなればクライアントのプラットフォームは確実にWebへと移るでしょう。IT業界にとっても大きな変化が訪れるはずです。

しかしグーグルのこの目標は実現可能なのでしょうか? 僕は実現可能だと思っています。それにはHTML5だけでなく、プログラミング言語としてのJavaScriptの進化もカギを握っていますが、いま多くのWebブラウザはJavaScriptの実行環境としてJITコンパイラを搭載しようとしていますから、実行速度の点で見ればもうすぐWebアプリケーションはネイティブアプリケーションとほぼ同等のところまで到達するでしょう。

HTML5にはローカルのデータベース機能が備わりますし、ビジュアル要素を柔軟に表現可能なCanvasや、まだ標準化前ですが3D表現にはO3Dがあります。あとは大規模開発に対応したJavaScriptの開発環境やライブラリ、フレームワークなどが揃えば、ネイティブアプリケーションとほぼ肩を並べられるだけの技術的な要素がおおむね出揃います。

つまりグーグルにとってはWebアプリケーションをネイティブアプリケーションと同等にするという目標は「ほぼ射程に収めた」はずです。もちろん実現と普及にはまだ3年から5年以上の長い期間が必要だとは思いますが、技術的に見て可能だと判断し、その実現に本気で取り組む、というモードにグーグルが入り、それが及川氏の「ネイティブと同等を目指す」というはっきりした目標の提示につながっているのではないかと僕は想像しています。

あらゆるデバイスの基盤技術はWebで共通化する

もう1つはモバイルとPC、そしてそのほかのデバイスのアプリケーションもWeb標準に統一化されていく、という話です。

いまはケータイ専用のWebサイトが数多くあり、そこではケータイ専用の技術が多く使われています。しかし、iPhoneとAndroidの登場などによってデバイスが進化し、PC用に作られたWebサイトをケータイからも見る、という方向に向かっています。グーグルの及川氏も田村氏も、ケータイ専用Webはなくなり、Web標準に一本化されていくという見方で一致しました。

そしてこの進化の方向はモバイルやスマートフォンだけでなく、例えばカーナビの画面、デジタルサイネージに使うディスプレイなど、多くのデバイスで動作するアプリケーションがHTML/CSS/JavaScriptのWebテクノロジーを基盤に統一されていくシナリオの一部であると僕は思います。Webアプリケーションがネイティブと同等になるのであれば、モバイルでも機種に依存した専用アプリケーションを作るより、標準技術を基に汎用性のあるアプリケーションを作る方が効率的です。

もちろん画面の大きさなどデバイス固有の要素は残るため、デバイスごとにアプリケーションをカスタマイズするニーズは残ります。しかし、わざわざ機種依存性/OS依存性のあるネイティブアプリケーションを作るのは、どうしてもネイティブでないと実現できないデバイスごとの独自機能を使うケースや、メモリやCPUパワーの余裕のないケースなどに限られてくるでしょう。

Webテクノロジーの進化はメガトレンドになる

こうして見ていくと、Webテクノロジーの進化というのはあらゆるアプリケーションやデバイスに影響を与え巻き込んでいくメガトレンドだといえます。

いまVisual BasicやC++やC#などでクライアント用のアプリケーションを構築しているプログラマ、デバイスごとにネイティブなアプリケーションを開発しているプログラマ、そして開発しているのが業務アプリケーションでもエンターテイメントでもエデュケーションでも、そのほとんどすべてがWebテクノロジーを基盤にする時代が数年先にやってくるのではないでしょうか。

今回@ITに掲載した記事はシリーズにする予定で、今後モジラ、マイクロソフトなど他の主要なWebブラウザベンダにもインタビューを申し込み、記事化していく予定です。このメガトレンドの現状と実像を少しでも明らかにしていきたいと思っています。

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Junichi Niino(jniino)
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