次世代エンタープライズアプリケーションの姿が見えてきた

2009年6月25日

今週届いた日経コンピュータの特集は「プロフェッショナルが7月から取り組むこと」。見出しには「7月から反転攻勢、2010年1月の景気回復に備え」という文字が躍り、記事中でガートナーが「7月1日までにビジネスの成長戦略を描こう、景気回復局面を見据えた行動を、CIOなどの企業経営層は起こすべきだ」と檄を飛ばしています。

また別の視点で見れば、1990年代後半から2000年代前半にかけてのERPブームにのって大量に導入されてきた業務システムの入れ替え時期がやってきているとも言われています。

そろそろ、企業のIT投資の復活が期待されるタイミングなのかもしれません。

これからのIT投資によって構築されるエンタープライズアプリケーションはどのようなものになるのでしょう? この1~2年で、Web 2.0に端を発した企業内の情報共有基盤としてEnterprise 2.0が語られるようになり、Ajaxなどリッチクライアント技術は発展し、クラウドやSaaSは具体的な選択肢となるなど、エンタープライズアプリケーションをとりまく状況はずいぶん変わりました。

いまは存在しないエンタープライズアプリケーション

eWEEKの記事「Ten Enterprise Apps That Don't Yet Exist--but Will Be a Big Deal in 5 Years」は、いまは存在しないが5年以内に重要となるエンタープライズアプリケーションを予測しています。非常に興味深い予想が含まれているので、そのうちの4つほどを紹介しましょう。

エネルギーダッシュボード
自社のエネルギー使用量や炭素排出量を示すだけでなく、競合他社に対してどれだけグリーン度が高いかも教えてくれるアプリケーション。

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リアルタイム・リアリティ
いままでバッチ処理で行われていた自社の財務状況、従業員の情報、在庫や販売状況といった情報をリアルタイムで教えてくれるアプリケーション。

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コンプライアンス・サーモメーター
管理すべき顧客情報はどうなっているか、財務報告書は要件を満たしているか、勤務環境はどうか、といったコンプライアンスに関する現状を計測し、報告してくれるアプリケーション。

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業務ニーズと能力のある社員のマッシュアップ
正規雇用されている社員や社外協力者などの中で、プロジェクトの要件を満たす能力を備えたスタッフを適切に選択できるアプリケーション。

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いま開発すべき5つの新しいエンタープライズアプリケーション

上記の記事を書いたeWEEKの編集長Eric Lundquist氏は、2週間前に「The 5 New Enterprise Apps You Should Be Developing Now」(いま開発すべき5つの新しいエンタープライズアプリケーション)という記事も書いています。

その5つのアプリケーションをLundquist氏は次のように箇条書きにしています。

1. True business intelligence.
金融業界が行ってきたような最小限のコンプライアンスや思い上がったモデリングを基にしたBIではなく、自社のビジネスの本質を反映したシステムを構築するべきだ。

2. The business backbone.
環境政策として、連邦政府は定期的にエネルギー消費を報告する企業に対しての優遇制度を設けるのではないかと予想している。いまからそうした制度に適合したシステム構築に取りかかるべきだ。

3. The social net monitor.
ソーシャルネットワークはマーケティング、製品開発、顧客サポートに使えるものとなる。しかし、エンタープライズアプリケーションにはソーシャルネットワークとの連係が欠けている。

4. The cloud monitor.
クラウド上のアプリケーションの状態が計測、モニタされ、管理できるようにならないかぎり、クラウド上でミッションクリティカルなエンタープライズアプリケーションが展開されることはないはずだ。

5. The mobile enterprise.
コンシューマアプリケーションは、エンタープライズアプリケーションをリードしている。次世代のエンタープライズアプリケーションは、当初からモバイル機能を織り込んだものとして開発されるはずだ。

特に「3. The social net monitor.」の、ソーシャルネットワークとエンタープライズアプリケーションとの連係は、今後CRMによるマーケティングやカスタマサービスに関するアプリケーションでは不可欠なものになるはず。僕も強く同意します。ただし、どう実装すべきかは難しい問題です。

また「4. The cloud monitor.」の、クラウド上にミッションクリティカルなアプリケーションを展開するには、モニタや管理が必要だというのは、クラウドベンダにとって重要な指摘だと思いました。こうした機能をクラウドベンダはまだ十分に提供しているとはいえません。

SAPとGoogle Waveとは相互補完的

エンタープライズアプリケーションを提供する立場からも、次世代に対する模索は当然あります。SAPでストラテジック・ソリューション・アーキテクトのBernhard Escherich氏は「Should SAP join Google´s Wave?」(SAPはGoogle Waveと連係すべきか?)というブログで、SAPのエンタープライズアプリケーションとGoogle Waveの連係の可能性について検討しています。

彼は、Google WaveとSAPは互いに相互補完的なものとして活用できるだろう、としたうえで、次のようなシナリオを挙げています。

1. Google Wave as additional interface for collaborative scenarios, e.g. Recruiting
eリクルーティング機能のような、コミュニケーション/コラボレーション機能として使う。

2. Google Wave as authorization management interface
3. Google Wave as additional interface for approval processes
Google Waveをスタッフの認証機能や、管理職の承認機能として使う。

4. Google Wave with integrated BO capabilities
BI機能を持つBusiness Objects(BO)のレポート機能と、Google Waveのコミュニケーション機能を統合する。

5. Google Wave as knowledge sharing tool with strong connections to SAP HR
SAPの人事管理機能にGoogle Waveをナレッジの共有や蓄積ツールとして連係させる。

SAPだけでなく、これまでのエンタープライズアプリケーションはコミュニケーション機能を重視したものではありませんでした。ですからEscherich氏が考えるように、Google Waveのような強力なコミュニケーション/コラボレーションツールはエンタープライズアプリケーションと相互補完的なものになるのは間違いありません。

しかしこうした考えは新しいものではなく、Enterprise 2.0というキーワードとして考えられていた範囲のものだといえるでしょう。

現実に投資しようとされているエンタープライズアプリケーションは?

現実に戻って、日経コンピュータが示す調査結果を見てみることにしましょう。同誌が73社に対して行った調査結果によると、2009年度下期(2009年10月~2010年3月)におけるIT投資の重点分野としては、飛び抜けて営業、販売系システムへの投資が多いと示されています。

fig 日経コンピュータ 2009年6月24日号から引用

これらの投資によって実現されるエンタープライズアプリケーションは、どのようなものになるのでしょうか? やはり従来型の保守的なシステムになるのか、ここに挙げたようなチャレンジングな機能を取り入れていくのでしょうか。

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