仮想化ベンダはなぜいなくなったか? 時代はクラウドを巻き込んで総合ソフトウェアベンダへ

2009年8月28日

最後の仮想化専業ベンダだったヴイエムウェアがSpringSourceを買収し、仮想化ソフトウェアを専業とする主要ベンダはなくなりました。

なぜ、仮想化専業ベンダはなくなったのでしょうか?

仮想化ソフトウェアでの差別化は終わり

理由は単純です。仮想化ソフトウェアだけでは差別化ができなくなってきたためです。

1年以上前であれば、製品の安定度、ライブマイグレーションなどの機能、管理ツールが充実しているかどうか、といった点で仮想化ソフトウェアは差別化が可能でした。しかし製品の成熟度や機能の多くが横並びになりつつあり、仮想化ソフトウェア単体での差別化はほとんどできなくなってきました。

そこで差別化のポイントは、仮想化ソフトウェアの上でどんな付加価値を提供できるか? に移りました。

ヴイエムウェアはクラウド環境を提供するベンダへの変身を目指していましたが、SpringSourceの買収によって、一気にクラウド上のミドルウェアレイヤまでを提供するソフトウェアベンダになりました。

同じく仮想化ソフトウェア専業のベンダとして存在していたバーチャルアイアンは、今年の5月にオラクルに買収され、そのラインナップは残念ながらオラクルの製品としては残らないようです。オラクルは、いわずとしれた総合ソフトウェアベンダであり、Oracle VMと同社製品との組み合わせを推奨しています。

InnoTekの買収でVirtualBoxやxVMを展開していたサン・マイクロシステムズも、オラクルに買収されました。

昨年XenSourceを買収して仮想化市場へと参入したシトリックスは、仮想化技術を同社のコアコンピータンスであるアプリケーションデリバリを高度化するための技術として用いています。

Hyper-V 2.0をひっさげて仮想化ソフトウェア市場で存在感を増すマイクロソフトは、改めて説明するまでもなく巨大な総合ソフトウェアベンダであり、Hyper-VはWindows Server 2008 R2の一部として提供されます。

総合ベンダの時代へ、しかし目利きは必要だ

オープンシステムの幼年期の終わり - Publickey

専業ベンダが減っているのは仮想化の分野だけではありません。以前のエントリ「オープンシステムの幼年期の終わり」で書いたように、オープンシステムの普及と充実によって市場にあるあらゆるソフトウェア、ハードウェアは相互に組み合わせて利用できるようになりました。しかしその半面、組み合わせの種類そのものが複雑になってきており、なにをどう組み合わせることが最適なのか、利用者が判断することがどんどん難しくなってきています。

そのため、それらを組み合わせて1つのソリューションとして提供できる総合ソフトウェアベンダの魅力が高まってきているのです。またクラウドは、これをソフトウェアだけにとどまらず、物理レイヤにまで推し進めたものだと捉えることができます。

ある意味でこれは利用者にとって楽な時代の到来かもしれません。ベンダが総合化し、巨大化し、彼らが提供する統合ソフトウェアスイートやクラウドを利用すれば、エンドユーザーは細かいことを考えなくてもITが利用できるようになってきています。

かつてのメインフレームの時代は総合ベンダが主役でしたが、その後のオープンシステムの到来とともに専業ベンダが台頭し、やがて再び総合ベンダがの時代が戻ってこようとしています。

そしてこれから企業が利用するITの半数以上は、もしかしたらこうした総合ベンダによるパッケージとしてのソフトウェアやサービスで十分にまかなえるかもしれません。例えばメールやコラボレーション、財務会計といった一般的な機能を実現する分野ではパッケージやサービスとして提供されている製品の利用がさらに進むでしょう。

しかし企業のコアコンピータンスを担う部分を考えたとき、それらを汎用品でまかなえるでしょうか? 企業の競争力を担う部分のIT化では、やはり差別化のために独自のシステム構築が必要と判断されるケースが必ず残るはずです。ここでは、オープンシステムのメリットを最大限に活かして、最適なシステムとアプリケーションを構築すべきでしょう。もちろんそこにはSIerやコンサルタントなどのITに対する目利きが必要です。

専業ベンダの時代から、総合ベンダやクラウドベンダが活躍する時代へ。その流れを見据えつつ、汎用的なITで済む部分はできるだけコストパフォーマンスの高いソフトウェアやサービスを導入し、コアコンピータンスにあたる部分は知恵とコストを投資する。そういうメリハリをつけることが、これからの時代をうまく乗り切る知恵なのではないでしょうか。

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Junichi Niino(jniino)
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